先日、クレジットカードに関する大きなニュースが発表されて話題になりました。それは「実店舗でのクレジットカードでの支払い時にサイン(署名)が不要になる」というもの。
これまでクレジットカードと言えばサインが付きものでしたが、これが必要なくなることで私たちのクレジットカード利用にはどのような影響があるのでしょうか。
目次
主に米国で支払い時のサイン(署名)が不要になる
今回サインが不要になると発表したのは、「VISA」「Mastercard」「アメリカン・エキスプレス(AMEX)」「Discover」の主要クレジットカード会社4社です。
まずは各社からの発表を確認しましょう。
Mastercard
Mastercard announced today that merchants in the U.S. and Canada can forego cardholder signatures for in-store credit and debit purchases, effective on April 13. The goal is to speed customers through checkout lines and give merchants greater control over customer experience. Merchants will decide when to implement the change.
引用元:Mastercardプレスリリース<訳>
Mastercardは、米国ならびにカナダにおける販売者が、4月13日以降は店舗でのクレジット・デビットでの支払いにおいて利用者の署名を省略することができるようになると発表しました。これは顧客の支払いの迅速化と、販売者が顧客満足度を向上させやすくすることを目的としています。いつから署名を求めるのをやめるのかは、各販売者が自在に決めることができます。
VISA
To continue the ongoing migration to EMV chip, and to bring increased security and convenience to the point of sale, Visa is making the signature requirement optional for all EMV contact or contactless chip-enabled merchants in North America, beginning April 2018.
引用元:VISA Corporate Tumblr<訳>
現在進行中のEMV(※1)チップへの移行を継続し、販売における安全性と利便性を向上させるために、Visaは2018年4月以降、北米のすべての接触・非接触EMVチップ対応販売者に対して署名を必要とするかどうかを選択できるようにします。
※1 EMV…IC型クレジットカードの統一規格で、Europay International、VISA、Mastercardの三社の頭文字を取って「EMV」と名付けられたもの。いわゆるICチップのこと。
アメリカン・エキスプレス(AMEX)
American Express today announced it is eliminating the requirement for merchants to collect Card Members’ signatures for all purchase transactions at the point of sale beginning in April 2018.
引用元:アメリカン・エキスプレス(AMEX)プレスリリース<訳>
アメリカン・エキスプレスは2018年4月以降、全ての販売時の支払いでカード会員の署名を要求することを販売者に求めないと発表しました。
Discover
Beginning in April 2018, Discover will no longer require signatures at the point of sale for credit and debit transactions on the Discover Global Network in the United States, Canada, Mexico and the Caribbean.
引用元:Discoverプレスリリース<訳>
2018年4月からDiscoverでは、米国、カナダ、メキシコ、カリブ海のDiscover Global Networkでのクレジットカード取引とデビット取引の販売時の署名が不要になります。
各社とも2018の4月より販売時のサインを不要にすると発表していたことがお分かりいただけるかと思います。各社の発表にもあるように、まずは主に米国で実施される動きとなっています。
サインがなくなることで安全性に問題はある?
元々、クレジットカード支払い時のサインには、カード裏の署名と突き合わせることで本人確認をするというセキュリティ面での目的がありました。
詳細については下記ページに記載していますので、ぜひご一読ください。
クレジットカード裏に署名する理由は?漢字と英語どっちで書くべき?
そう聞くと、これが廃止になってしまうと安全面で問題が出るのではないかと不安になりますよね。ですが、安全面に問題がないからこそ署名の廃止に一歩を踏み出した、と言えるのが今回の変更です。
サインでしか決済ができないクレジットカードは危険?
クレジットカードの支払い時に、サインを求められる場合と暗証番号を求められる場合があることは多くの方がご存知だと思います。この差は、「使っているクレジットカードにICチップが搭載されているか」「加盟店の端末がIC決済に対応しているか」という2点によって生まれます。
ICでの決済が可能な場合(カードにICチップが搭載されていて、加盟店の端末もICに対応している場合)は、暗証番号を入力する形で決済を行うことができるのですが、いずれかの条件を満たしていない場合は、サインでの決済となります。
ICチップに対応していないクレジットカードとは、つまり磁気ストライプで決済を行うカードのことなのですが、このカードはスキミングなどの被害に対するセキュリティが弱いとされているのです。スキミングを行えば、2,000円程度のコストで簡単にカードの複製が行えてしまうと言うから驚きですよね。
そうした被害が急増した時期に登場したのがICチップ(EMVチップ)で、磁気ストライプよりも安全性が向上していることから、世界に広まっていきました。
要するに、ICチップが搭載されていないカード(=サインでしか決済ができないカード)は安全性が低く、サインだけでなく暗証番号による決済もできるカードの方が安全性も高いということなので、この変更によってセキュリティが損なわれることはないと考えて良いでしょう。
近年のクレジットカード業界における安全性の向上
また、磁気ストライプからICチップへの移行だけに留まらず、クレジットカード業界では様々な方法で安全性の向上がなされています。
例えばDiscoverのプレスリリースでは、安全性について下記のように言及されていました。
Discover has already implemented a number of digital authentication technologies such as tokenization, multi-factor authentication, and biometrics that are more secure than requiring a signature and provide a more seamless payment transaction.
引用元:Discoverプレスリリース<訳>
Discoverでは、トークン化(※2)、マルチファクター認証(※3)、バイオメトリクス(※4)などのデジタル認証技術をすでに実装しており、署名を必要とするよりも安全で、よりシームレスな支払い取引を提供します。
※2 トークン化…入力されたクレジットカード情報を別の文字列に暗号化すること。
※3 マルチファクター認証…利用者が知っていること、利用者が所有しているもの、利用者の特性から複数の要素を使用して認証を行うこと。
※4 バイオメトリクス…顔や指紋、声紋、虹彩などによる生体認証のこと。
こうした安全性向上を背景に、もはや支払い時のサインは安全面で必要がなくなり、むしろ手間を取らせるだけだという判断から廃止の動きが生まれたと言えます。
今後のサイン廃止の流れについて
現状、主に米国でスタートした決済時サイン廃止の潮流ですが、安全性に悪影響を与えずに決済のスピード化が実現できることから、今後は世界的に広まっていくことが予想できます。
日本では、2020年までにクレジットカードの100%IC化を目指すと日本クレジット協会が発表しているため、近いうちにほとんどのカードがICチップ搭載となるでしょう。そうなると、支払い時のサインをわざわざ行いたい人を除き、ほとんどの人はスピーディに決済が済む方法を選ぶのではないでしょうか。
実際は加盟店側のIC対応端末導入の問題もあるため、すぐに完全に切り替わるとは考えづらいですが、いずれサインが消えていくことは間違いないのではないかと思います。
まとめ
クレジットカードの決済時のサインが不要になると聞くと、安全面が少し不安になってしまう人もいるかもしれませんが、実際は様々な技術によってクレジットカードの安全性が向上した結果の変更と考えれば、好意的にとらえることができるのではないでしょうか。
今はまだ米国などだけで行われている変更で、サインを廃止するかどうかも加盟店の判断に任されている部分がありますが、利用者にとって決済のスピード化というメリットがある以上、今後も世界的に広まっていく変更になることが予想されます。
日本でも2020年までに100%IC化を目指すという流れが発生していますので、これからクレジットカードを持つ方は、ぜひICカード搭載のものを選んでみてはいかがでしょうか。